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死期の抗争

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ますます、父の容態が悪くなり、ついに自力で歩けなくなってしまった。
わたしは、夜中と朝方に2回起こされて、トイレに一緒に行った。
父は自ら、これから一階に住むことに決めた。

ここにきて問題は、母なのである。
母は、看護師さんから「奥さんがこんなにオロオロしてたら、ご本人さん不安ですよ」と言われているのに、そのオロオロに拍車がかかっているのだ。

昨日、彼女は「お父さん、あれだけ食べてないから、餓死するんじゃないかと思って、病院に電話をかけてん」と言った。
「なんて聞いたん?」
「栄養を入れられないのかって・・・、胸になんとかポートっていうのをつけたたから、あれは使えないんですかって」
「じゃあ、なんて?」
「先生に訊いてみますって。看護師さん、もうやる気ないんやで。わたしらを見放してるんやわ」
「いやそれは、質問を二つにするからやろ。栄養を入れられないんですか、の一つでええやん。ポートの話なんか、素人が決めることじゃないやろ」
「だって、栄養を入れるときのために、ポートを作るって言うたのに、全然使ってないやないの!」
「いまは使う時期じゃないってことやろ?」

そのうち、二人の雰囲気がだんだん悪くなってきた。
母にとっては、「奥さん、大変ですが、頑張っていきましょうね」とか、優しく背中を叩いてくれたりするのが、よいドクター・看護師なのだ。
たぶん、この人は名医でも無愛想なら、「あの先生はダメ」ってなるんだろうな。
医療従事者に限らず、母はいい人・悪い人の判別が単純で、つまり優しいかどうかだけなのである。

「お父さんも、餓死するんちゃうかって言うてんねんで!」と母が鬼の形相で言うので、わたしはふと思い出したことを口にした。
「栄養を入れたら、2週間で血管ボロボロになるらしいで」
「えっ」
ちょっとデタラメが入っているかもしれないが、どっかで読んだことである。
とにかく、わたしの考えでは、「いまから栄養を入れてください」とか、患者側が医療サイドに指示するものではないのだ。

しかし母は性懲りもなく、今度は父に向かって、「こんなに食べなかったら、餓死する」とか「脱水症状を起こす」とか、断定形で父を脅かしていた。
父は苦笑いしながら、「いや、それは・・・」と小さく言った。
彼女はたぶん、自分が不安なのを、病人本人に押しつけたいんだろうな。
わたしはもう、この爆走している母親をなんとかして、という思いと、いやここでくじけたら父が可哀想、という思いで、クタクタになってきた。

ほかにも母は、あろうことか、父に対して、ドクター・看護師さんへの不満をぶつけていた。
患者にとってすがるものは、信頼できる医療と家族しかないのに・・・。
自分の勝手な考えや感情で、チームワークを乱している母親が疎ましい。
わたしは、じっと寝ている父が不憫で仕方ないよ。
由巳ゆみ.
Posted by由巳ゆみ.